全日本フィギュア四方山話 その一
「こんばんは。」
「おや、八っつあん。どうしたんだい、こんな夜中に。」
「どうしたもこうしたも、全日本フィギュアで真央ちゃんが優勝してからというもの、妙に興奮しちゃって眠れないんですよ。」
「しょうがないやつだな、お前は。まぁ気持ちは分からないでもないが・・・まぁ、ここへ来て一杯やんな。」
「ところで若旦那は、まだあちらに行ったっきりで?」
「うん。正式に真央ちゃんの出場が決まってからはいよいよ気合が入ってきて、もうこのままバンクーバーに骨を埋めようか、なんて言い出す始末さ。」
「そりゃあ若旦那も大変なもんですな。でも、そういう大旦那だって人のことは言えませんよ。」
「あたしがかい?どうしたの?」
「どうしたのって、真央ちゃんのショートとフリーの放送の間中、またもやこちらの方角から、猫を刺身包丁で切り刻んだ時のような恐ろしい声が聞こえて来ましたよ。あれ、あなたの声でしょう?ウチのガキなんかすっかり怯えちまって・・・。」
「一体どんな声だい、そりゃ。でも今回は久々に力が入ってしまったからな。まぁこれでアメでも買ってやっとくれ。」
「でもショートの3Aが決まった時には、あっしも思わず目頭が熱くなりましたよ。」
「あたしが一際大きく叫んだところだな。でもあの3Aが回転不足でDGされたのが悔しいじゃないか。」
「うーん、綺麗に回っていたように見えたんですがね。でもこういう細かな部分を修正していけば、3Aが一回づつでも、常にトータルで210点くらいは十分に叩き出せるんじゃないですかね、真央ちゃんなら。」
「そうだな。今回3Aを一つ減らした事は正解だったな。その日の調子をみてジャンプを変えるってあたりは、真央ちゃんもまた進化したな。」
「そうですよ。3Aを3回っていうのは、プロ野球のバッターで言えば毎試合満塁ホームランを3本狙うくらいの大変なことなんだ。イチローだって調子が悪い時にはセーフティバントで稼いだりするじゃないですか。」
「まぁ、それでプログラムの完成度がかえって上がるんだから凄いよな、真央ちゃんは。」
「ところで、今回の全日本フィギュアでも、色んな選手の演技が観れて楽しかったですね。大旦那が2番目にご贔屓の武田奈也選手も出たし・・・。」
「いやぁ、ごっつぁんです・・・って何を言わすんだよ、お前は。」
<続く>